流れ者と少年の心のふれあい、全編温かさに満ちた名匠スティーブンスの西部劇である。正義と悪、男の友情、健気な女や子供たち、決闘。これは人間ドラマに主眼をおいた異色の“ホームドラマ版西部劇”ともいえる名画だ。

ドラマの根底に流れる「遥かなる山の呼び声」のテーマ曲、美しい山並みに向かって去って行くシェーン。その名を叫ぶ少年の姿が画面いっぱいに映し出される感動のラストシーンは映画史に残る名場面である。
1953年製作のアメリカ映画。監督は「陽のあたる場所」でアカデミー賞に輝いたジョージ・スティーブンス。出演はアラン・ラッド、ジーン・アーサー、ヴァン・ヘフリン。ヴィクター・ヤングの音楽が効果を出している。
冒頭、山を下りて来るシェーンが馬で歩く大ロングは、ワイオミング州のグランド・ティートン山脈を望む大平原、水と緑あふれる土地だ。そして主人公が川を渡って近づいてくる姿を、銃を持って鹿を狙っていたジョーイ少年(ブランドン・デ・ワイルデ)がじっと見守る。近づくシェーン。
ジョーイ、父親のところへ「誰か来るよ」と知らせに行く。木の根に斧を打ち込んでいたジョー(ヴァン・ヘフリン)が、手を休めて見る。典型的な開拓農民の家だ。来ているシェーン。
「通って良いかな」
「構わんよ」とジョー。妻マリアン(ジーン・アーサー)が開いた窓から見ている。ジョーイに近づくシェーン。
「やあ、おじさんをじっと見てたね。ものを観察するのはいいことだ。前途有望だぞ」
牛がウモウッと啼く。
「ジャージィ牛か、懐かしいな」
「これからもっと増える。(水を柄杓でシェーンに差出し)飲むか?」とジョー。
馬から下りるシェーン、柄杓を手にする。その時、ジョーイが銃の撃てつを挙げる音がする。とたん、シェーンが振り向きざま腰の拳銃に手をやる。
「敏感だな」とジョー。
「ジョーイ、銃を向けては駄目よ」とマリアン。
「向けてないよ」
「冷や汗かいた」とシェーン、バツの悪そうな顔で答える。
「ライフルを見てほしくて。撃てる? 撃てるよね」とジョーイ。
「まあな」
ジョー・スターレットがシェーンに話をする。このあたりの土地はほとんどがライカーのものでそこへ移り住んで来た開拓農民をライカーは目の敵にしている。放牧の時代は終わったとジョーはいう。これからは穀物を作っていく時代なんだと。
ジョーが雇っていた男はライカー兄弟に脅されて居なくなり、今は人手が足りない。
「素晴らしい食事でした」とマリアンに言い残してシェーンは外へ出て行く。ジョーイが後を追う。窓から外を見たジョーが言う。
「こりゃ驚いた、マリアン、見てごらん」
一人、黙々と斧を振るうシェーンの姿。
大きな木の根っこを斧で削っているシェーンとジョー。二人、顔を見合わせてにっこり笑う。日が暮れても二人は止めない。渾身の力を込めて根っこを押す。何度も何度も、そして遂に根っこを抜くことに成功する。
シェーンはジョーに雇われることになり、一人で町まで買い物に出かける。ジョーに頼まれた針金と自分の作業着、それにジョーイのソーダー水だ。
町とは云うものの、雑貨屋と酒場を兼業しているクラフトンの店と鍛冶屋など数軒が建っているだけの小さな町だ。バーにはライカー兄弟と子分たちがとぐろを巻いている。雑貨屋で買物をすませたシェーンが、ソーダー水を買いに酒場に入る。ライカーの手下クリスがちょっかいをかける。
「臭うと思ったら豚野郎が一匹居やがったな。こいつを飲みな」
と、真新しい作業着の上からコップのウイスキーをぶちまける。じっと耐えるシェーン。
開拓農民たちは団体行動することになり、買物に行くのも馬車を連ねて行く。今日はその日である。ジョーの馬車も家を出て行く。雷鳴が轟く。先行きの不安を思わせる演出だ。
馬車がクラフトンの店の前に止まり、農民たちは店に入って行く。
シェーンがバーテンの前にソーダー水の壜を置く。クリスが仲間の一人にいう。
「あれが例の新参者だ。通称ソーダー水男だ。(シェーンに向かい)聞き分けの悪い男だな、二度と来るなと云った筈だ。失せろ、豚野郎。女子供と居る方が安全だぞ」
「図に乗るな」とシェーン。
「さっさと行けよ(椅子から立ち上がってシェーンのそばへ寄り)いっぱしに酒を飲む気か?」
「(バーテンに)ウイスキーを2杯。この前の礼をしたい。俺の奢りだ」
「ここじゃ飲ませねえ」
「そうか・・・」
と、シェーン、ウイスキーを手に取るや1杯をクリスの服にかけ、もう1杯を顔にかける。と同時にパンチをお見舞いする。ジョーイの見ている方へ吹っ飛んでくるクリス。
クリスとシェーンの間で激しいパンチの応酬。クラフトンが「止めろ!」と叫んでも益々激しくなる。遂にクリスをKOするが、「やっちまえ」とライカーたちが一斉に襲い掛かる。孤軍奮闘するシェーンだが、捕まってしまいライカーの猛烈なパンチを続けさまに浴びる。
ジョーのところへ駆けつけるジョーイ、「シェーンが殺されちゃうよ!」ジョー、木切れを手に殴りこむ。ライカー一味と殴り合うシェーンとジョーの二人。椅子が壊れ、グラスが破損、酒場の中は無茶苦茶だ。「もう止めろ!これ以上やると死人が出る」とクラフトン。
「店の修理代はライカーには払わせん、俺とシェーンの二人で払うからな」とジョー。
ある日、その日は独立記念日だった。黒ずくめの服のガンマンがやって来た。ライカーに呼ばれた早撃ちウイルソン(ジャック・パランス)、二挺拳銃の殺し屋だ。
ジョーイが銃の撃ち方を教えてとシェーンにせがむ。自分も久しぶりにホルスターを腰に巻き、拳銃をつけるシェーン。ジョーイの手を取って教えてやる。「撃って見せてよ」とジョーイがせがむ。
「何を撃つ」
「あそこの白い石は?」
瞬間、抜く手も見せず、石を二度、三度と狙い撃ちするシェーン。石が踊る。目を丸くしているジョーイ。丁度、盛装して出て来たマリアンも見る。馬で帰ってきたジョーがいう。
「祝砲には気が早いんじゃねえか、シェーン」
ある日、トーリと仲間の農夫シップステッドが町へやってきた。シップステッドが鍛冶屋に用事があったからだ。トーリは酒場に向かう。遠雷が不気味に響く中、ウイルソンがトーリの行く手に立ち塞がる。ウイルソンに南軍の将軍のことをからかわれたトーリはカッとなり、腰の拳銃に手をやる。トーリを平然と撃ち殺すウイルソン。
ライカー一味がジョーの家にくる。話し会おうという申し出だ。必ず行くと返事をするジョー。伝言を伝えて帰っていくライカー一味。後から一人でくるクリス、シェーンを呼ぶ。クリスはさっきの呼び出しは罠だとシェーンに告げに来たのだ。ライカーから足を洗うというクリスにシェーンは手を差し出す。
ジョーがマリアンの前に座る。
「マリアン、お前たちのために俺は行くんだ。臆病者の汚名を着て君と暮らせと? ジョーイに何と言い訳するんだ」
「ジョー、そんなこと」
「これは考えた末の決断だ。俺は鈍い男だが、これだけは言える。万一、俺が死んでも君は大丈夫だ。俺より幸せにしてくれる人間がいる。こんなことを云う日がくるとは・・・」
顔を覆って泣いているマリアン。
「だが、今しか本音で話す機会はないからな。」
「私はそんなに薄情?」
「マリアン、君は誰よりも正直で高潔な女だ。信じてなけりゃ、今まで一緒にいない」
ジョー、立ち上がってホルスターを腰に巻く。
ガンベルトをつけたシェーンが入ってくる。
「シェーン、主人を止めて、誰も行かせないで」
「俺にまかせろ」とシェーン。
「俺の戦いだ」とジョー。
「ライカーは倒せたとしてもウイルソンは無理だ」
「必ず倒して見せる。忠告には感謝する」
「二人とも正気なの、命がかかってるのよ」
「どけ、邪魔するな」
「役不足だ」
「誰ならいい」
「俺だ」というシェーン。
ジョー、シェーンに飛び掛る。激しい殴り合い。マリアンの悲鳴、柵の中の牛や馬が暴れ出す。ジョーがシェーンを倒して馬に乗りかかるとシェーンがまた引きずり落とす。果てるともない殴り合いが続く。シェーンが拳銃を抜いて銃杷でジョーを昏倒させる。
「シェーン、銃で殴るなんて卑怯だ」とジョーイ。
シェーン、気を失っているジョーを介抱するマリアンの傍へいき、「気が付いたら歩かせてやれ。大丈夫だ、意識は戻る。誰も彼を責められないさ」と言い残して行こうとする。
「シェーン、待って。これは私たちのためなの」
「君とジョーのため、それにジョーイのためだ」
「もう二度と会えないのね」
「おわかれだ。ジョーに伝言を、許してくれと」
「必要ないわ」シェーンをじっと見詰め、「命を大切に」と手を差し出す。握手する二人。
シェーン、馬に乗って出て行く。意識を取り戻すジョー。
ジョーイ、「シェーン!」と後を追いかける。
町に向かうシェーン、追うジョーイ少年と犬。懸命に走る。やがてクラフトンの酒場が見えて来る。シェーンが酒場に入って行く。入り口近くのテーブルにコーヒー置いて坐っているウイルソン。奥に方にいるライカー。辿りついた少年と犬が出入り口から覗きこむ。カウンターの前に立つシェーン。
「話を聞きに来た」
「お前に用はない。スターレットは?」とライカー。
「俺が相手だ」
「お前と争うつもりはない。悪いが出てってくれ」
「条件は?」
「お前には何もない」
「残念だ。長生きしすぎたな、お前の時代は終わった」
「お前の時代はどうだ?」
「俺は心得てる」
「銃を置いて話をしようか」
「まだだ。お仲間に話がある」
「図に乗るな」とウイルソンが立ち上がって身構える。
「獲物はおまえじゃねえ」
「違ったか」
「残念だが、後戻りは出来んぞ」
「お前がウイルソンか」
「それがどうした」
「噂は聞いた」
「どんな噂だ?」
「(身構え)卑劣なヤンキー野郎だってな」
「抜けよ」
一瞬間があってウイルソンが抜くより早くシェーンの拳銃が火を噴く。斃れるウイルソン。ライカーも撃つ。シェーン、ライカーも倒す。見ているジョーイ、ミシッと言う音に気づき「シェーン、危ない!」と叫ぶ。二階からライカーの弟の銃が火を噴くと同時にシェーンが撃つ。二階から転落するライカーの弟。
「あいつがウイルソンだった?」とシェーンに話しかけるジョーイ。
「そうだ。噂どおりの早撃ちだった。何しにきた?」
「謝りに来たんだ、僕を許して」
「謝ることない。早く家に帰れ」
「どうしてなの、乗せてくれないの」
「いかなきゃならないんだ。それが俺の生き方なんだ。変えられない。努力したが駄目だった」
「一緒に居てよ」
「ジョーイ、人を一度殺してしまったら、元へは戻れない。殺し屋の烙印は一生付いて回る。もう戻れない。お母さんに伝えろ、何も心配ない、これで銃は消えたと」
「シェーン、血が出てる」
「大丈夫だ。早く家に帰って、強くてたくましい男になれ。ジョーイ、親孝行するんだぞ」
「約束する」と頷く。シェーン、頭を撫ぜて去っていく。
大平原の向こうに足早に遠ざかるシェーン。その背に呼びかける少年の声、「シェ〜ン!!・・・帰って来て〜!」と。少年の耳に聞こえるのはコダマだけだった。
心に染み渡る余韻。いつまでも残しておきたい名画である。
シェーンとマリアンのひそやかな愛が胸を打つ。これは西部劇に場を借りた二人の愛の物語であろうか。それを教えてくれるのが、ジョーがガンベルトを腰に巻き、マリアンに心情を吐露する名場面だ。
製作年 1953年 アメリカ・カラー 監督 ジョージ・スティーヴンス 出演 アラン・ラッド、ヴァン・ヘフリン、ジーン・アーサー